「道元思想論・松本史朗著・大蔵出版」を一読して・5






2010年10月07日(Thu)
「道元思想論・松本史朗著・大蔵出版」を一読して・5
「道元思想論・松本史朗著・大蔵出版」を一読して・5

さて、今回は更に「仏性内在論」と「仏性顕在論」における問題点について考えて参りたいと存じます。

松本氏は、禅思想の本質をなす基本的論理には、人間の思考を一切の迷妄と苦しみの根源として根源悪と見なし、「思考の停止」を迷妄と苦の消滅の因として説くという考え方があると述べられています。

では、どうして人間の思考が、一切の迷妄と苦しみの根源であるという考え方が生じるのかということに関して、如来蔵(仏性)思想の「仏性内在論」と「仏性顕在論」における、迷いの方向と悟りの方向について松本氏が非常に興味深い考察をされておられます。

まず、「仏性内在論」において、「人から諸法へ」という迷いの方向性があるということについてでございます。もともと人に内在している仏性から、それ以外の諸法(モノ・コト、事象・現象)というものは、煩悩(妄想・妄心・妄念・執着)の対象、あるいは原因となっているという捉え方があるというものです。

そのため、仏性以外の一切は、迷い苦しみをもたらす原因であるとして、思考というものもその中に包摂されてしまうことになります。この考え方には、思考・思慮・思念、言語活動・コトバの世界、分別・戯論というものは「悪」であり、不思不観・無念無想、言語道断、無分別・離戯論は「善」という捉え方が控えており、そのため、修行においても後者を目指して取り組むことへと繋がってゆくこととなってしまいます。

次に、「仏性顕在論」は、「諸法から人へ」という悟りの方向性があるということについてでございますが、この場合、煩悩(妄想・妄心・妄念・執着)を持ってしまって迷い苦しんでしまっている人から、既に仏性として顕現している諸法(現象的な個々の事物)に悟りを求めるべきであるという考え方となります。

つまり、迷い苦しみにある人が、既に悟っている諸法(現象的な個々の事物)へ悟りのあり方を目指していくということとなり、そのため、人間と諸法(現象的な個々の事物)との違いを考えますと、やはり人間活動における思考・思慮・思念、言語活動・コトバの世界、分別・戯論は、悟りの妨げとして、「悪」と見なされ、不思不観・無念無想、言語道断、無分別・離戯論は「善」という図式が成り立つことになるわけであります。

このように、「思考の停止」というものを目指すことが、やがて仏教の目指すべき最高の目的となってゆくと、基本的な仏教の教説(四法印、四聖諦、縁起・空の考え方、慈悲行、利他行、六波羅蜜行など)さえもが、簡単に破壊されていくという弊害が生じることにも繋がっていってしまいます。また、この「思考の停止」を目指すという考え方が起こった背後には、更に「無分別知」こそが、最高の境地、悟りの知であるという誤った概念が当時の仏教界において蔓延していたことも大きな要因として考えられています。

この「思考の停止」・「無分別知」を目指すという誤った考え方は、長らく仏教思想史上において強力な勢力を占めることとなってしまうわけですが、その見直し、是正を目指す動きが起こったのは、インドでも、また、中国でもなく、チベットの地において、「サムイェーの宗論」という、一大宗教論争が端緒となって現れることとなります。いわゆる、「如来蔵思想 VS 中観思想」でありますが、しかし、ここで完全に決着が付いたというわけではなく、その後においても議論は展開されてゆくこととなります。

※現在進めております如来蔵思想(仏性思想)関連の考察は、あくまでも中観思想(帰謬論証派)の立場をいったん脇によけておいてのものでありまして、その点はあしからずにご了承の程を宜しくお願い申し上げます。

・・

余談「批判的思考の必要性について・1」
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51772472.html

「道元思想論・松本史朗著・大蔵出版」を一読して・4
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51771197.html

「道元思想論・松本史朗著・大蔵出版」を一読して・1-3
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51770905.html

「禅思想の批判的研究・松本史朗著・大蔵出版 」を一読して
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51769465.html

ツォンカパ論師の中観思想を学ぶ意義4-5
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51768858.html

ツォンカパ論師の中観思想を学ぶ意義1-3
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51766505.html

「非有・非無の中道」について
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51764526.html

「縁起賛」・「ラムツォ ナムスム(道の三要訣)」・「四つの捕われから離れる秘訣」
http://blog.goo.ne.jp/hidetoshi-k/m/197611

「蟻の瓶と象の瓶」齋藤保高氏
http://rdor-sems.jp/index.php?%E8%9F%BB%E3%81%AE%E7%93%B6%E3%81%A8%E8%B1%A1%E3%81%AE%E7%93%B6

教理の考察「蟻の瓶と象の瓶」(齋藤保高氏)・感想1-3
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51749171.html

チベット仏教ゲルク派 宗学研究所
http://rdor-sems.jp/
ポタラ・カレッジ 齋藤保高氏の個人サイト

「苦楽中道説について」
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51739221.html

「苦楽中道説について」補足
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51746333.html

中観帰謬論証派の学びのススメ
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51597159.html

mixiコミュニティ「仏教・中観思想・空思想を学ぶ」
http://mixi.jp/view_community.pl?id=4629752

仏教・学びの進捗状況全般参照
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/

集中的に再読していく論著集

「中論―縁起・空・中の思想(上・中・下)」三枝充悳著 レグルス文庫
「大乗仏典14 龍樹論集」 中央公論新社
「講座 大乗仏教7 中観思想」春秋社
「講座 大乗仏教9 認識論と論理学」春秋社
「講座 仏教思想1 存在論・時間論」理想社
「講座 仏教思想2 認識論・論理学」理想社
「チベット仏教哲学」松本史朗著・大蔵出版
「チャンドラキールティの中観思想」岸根敏幸著・大東出版社
「ツォンカパの中観思想―ことばによることばの否定」四津谷孝道著・大蔵出版
「ツォンカパ 中観哲学の研究1」
「ツォンカパ 中観哲学の研究2」
「ツォンカパ 中観哲学の研究3」
「ツォンカパ 中観哲学の研究4」
「ツォンカパ 中観哲学の研究5」
「般若経釈 現観荘厳論の研究」兵藤一夫著 文栄堂
「ダライ・ラマ 般若心経入門」ダライ・ラマ14世著、宮坂宥洪翻訳・春秋社
「ダライ・ラマの仏教哲学講義―苦しみから菩提へ」
 テンジンギャツォ著・TenzinGyatso原著・福田洋一翻訳・大東出版社
「チベット仏教成就者たちの聖典『道次第・解脱荘厳』解脱の宝飾」
 ガムポパ著・ツルティム・ケサン、藤仲 孝司共訳 UNIO
「心の迷妄を断つ智慧―チベット密教の真髄」
 チュギャム トゥルンパ著・宮坂宥洪訳
「チベット密教 修行の設計図」
 斎藤保高著・春秋社
「チベット密教 心の修行」
 ゲシェー・ソナム・ギャルツェン ゴンタ著、藤田省吾著 法蔵館
「チベット仏教 文殊菩薩(マンジュシュリ)の秘訣」
 ソナム・ギャルツェン・ゴンタ著 法蔵館
『ダライ・ラマの「中論」講義―第18・24・26章 』
 ダライラマ14世テンジンギャツォ著・マリアリンチェン翻訳 大蔵出版
「悟りへの階梯―チベット仏教の原典『菩提道次第論』」
 ツォンカパ著・ツルティムケサン翻訳・藤仲孝司翻訳 UNIO
『「空」の構造 -「中論」の論理』立川武蔵著・第三文明社
「縁起と空 如来蔵思想批判」松本史朗著・大蔵出版
「チベット仏教哲学」松本史朗著・大蔵出版
「禅思想の批判的研究」松本史朗著・大蔵出版
「道元思想論」松本史朗著・大蔵出版
「法然親鸞思想論」松本史朗著・大蔵出版
「法華経思想論」松本史朗著・大蔵出版

施本シリーズ

施本「仏教・縁起の理解から学ぶ」
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