「道元思想論・松本史朗著・大蔵出版」を一読して2






2010年09月28日(Tue)
「道元思想論・松本史朗著・大蔵出版」を一読して2
さて、前回に引き続きまして、「道元思想論」の内容に関しまして考えて参りたいと存じます。

道元禅師の思想変容についての論考の中で、松本史朗氏は、如来蔵思想に関しまして、二つの定義を明らかにされます。

如来蔵思想(仏性思想)

仏性内在論・・仏性は、人間存在、特にその肉体の中に存在しているとする考え方。(心身)二元論の立場。

仏性顕在論・・現象的な個々の事物に仏性が全面的に現れている。現象的事物そのものを仏性と見る考え方。絶対的一元論の立場。

如来蔵思想(仏性思想)は、インドにおけるヒンドゥー教の「梵我一如」思想を起源として、その考えを仏教が取り入れていくことによって発展していった思想と考えられています。

「梵我一如」思想とは、「梵《ぼん》(ブラフマン・宇宙を支配する原理)」と「我(アートマン・個人を支配する原理)」が同一であること、また、これらが同一であることを悟ることにより、永遠の至福に到達しようとする思想であります。

しかし、如来蔵思想(仏性思想)は、仏教の基本法理としてある「諸法無我」や「空の思想」・「中観思想」との矛盾が指摘され、現代においても議論が展開されるところであります。

簡単に述べさせて頂きますと、(空・縁起の理解によって)一切の存在・現象においては、絶対的存在、超絶的・超越的存在、究極的存在は、見当たらないとして、それらを無実体・無自性・無自相視する立場と、絶対的存在、超絶的・超越的存在、究極的存在は、あるのだとして、それらを実体・自性・自相視するという立場との見解の相違であります。

如来蔵思想(仏性思想)は、明らかに後者の立場にあるとして、前者の立場からは、そのようなものは認めないとして批判されるわけであります。

私の如来蔵思想(仏性思想)に関しての見解につきましては、拙著・施本「仏教・縁起の理解から学ぶ」の「第九章 仏性思想・如来蔵思想について」、第十三章 現代日本仏教の抱える課題について」におきまして、ある程度扱わせて頂いておりますので、ここでは改めては述べませんが、松本氏は、「道元思想論」において、如来蔵思想(仏性思想)を批判する立場として、道元禅師の思想変容について論じられているのであります。

また、如来蔵思想(仏性思想)の展開においては、インドにおいて仏性内在論であったものが、中国における老荘思想の影響を受けて、仏性顕在論へとその性質を変え、仏性内在論・仏性顕在論が混在した思想が、日本へと随時に流入し、影響を及ぼす中で、日本の仏教思想の展開があるということを考える上でも非常に興味深いところがあります。

では、そもそも仏性内在論、仏性顕在論共に何が問題であるのかについて、次回は確認していこうと存じます。

・・

「道元思想論」の感想と致しましては、松本氏が提唱されました曹洞宗の批判宗学の意義、曹洞宗の開祖・道元禅師の思想変容に関しての興味深い内容を知見できたことと共に、更に、「如来蔵思想・仏性思想・本覚思想」の問題点につきましても改めまして考察を深めることができたように存じます。

まず、批判宗学につきましては、松本氏の提唱によりますと、

批判宗学とは何か。
1.「いかなる対象も絶対視・神秘化することなく。絶えず自己自身を否定しつつ、宗門の正しい教義を探求すること」
2.「いかなる対象」とは
”いかなる人物(宗祖)、テキスト(宗典、経典)、行(坐禅)、教義(縁起説)等”を意味する。
3.従って、批判宗学は、密教の否定である。
4.批判宗学は、宗祖無謬説に立たない。一切のguru(師)崇拝を排除する。
5.道元の思想的変化を認め、道元が目指そうとしたもの(正しい仏教)を、目指す。
6.批判宗学自身の見解は、縁起説であり、行は、縁起説にもとづく誓度一切衆生(自未得度先度他)の行である。
7.批判宗学は、本質的に、社会的(「誓度一切衆生」)でなければならない。
8.曹洞宗は、『弁道話』の見解と行、即ち、如来蔵思想(「仏性顕在論」)と、神秘的密教的坐禅(「一寸坐れば、一寸の仏」)を捨て、後期道元のものと思われる「深信因果」(縁起説)と「誓度一切衆生之坐禅」にまで、進むべきものと思われる。

とあります。主に宗祖・宗典・経典・教義・修行内容の絶対視・神秘化の排除、密教の否定、無批判的に宗祖無謬説には立たず、一切の祖師崇拝の排除(根拠のない盲目的信仰・崇拝の排除)を目的とし、曹洞宗においては、道元の思想的変容を認め、(如来蔵思想(「仏性顕在論」)・神秘的密教的坐禅から)、道元が目指そうとした(正しい仏教)〔「深信因果」(縁起説)と「誓度一切衆生之坐禅」〕を目指すこと、批判宗学自身の見解は、縁起説であり、縁起説にもとづく修行(仏道行)を目指すこと、また慈悲・利他(輪廻に迷い苦しむあまたの衆生を救おうとする精神)を目指し、社会との関わりを展開していくこととして、批判宗学は、社会的(「誓度一切衆生」)なるものでなければならないことなど、非常に興味深い内容があります。

この批判宗学については、当時、宗学内外において、賛否両論入り乱れ、大きな議論の渦を巻き起こしたことが想像できます。なぜならば、曹洞宗においては、宗派教義・教説の根底に関わることを扱っているため、下手に扱うと、宗派そのものを崩壊させかねない危険性があるからであります。更には、松本氏の論考姿勢である如来蔵思想批判の内容から鑑みますと、特に曹洞宗に限らず、広く大乗仏教の各宗派においても、批判宗学は適用される可能性は十分に高いからであります。現代仏教各宗派にとっても「対岸の火事」というわけにはいかないということであります。

そのため、ある意味で、伝統教学を護る護宗的立場(特に各宗派お抱えの御用学者)の者たちからは、批判宗学に対しての批判も多く噴出したのは確かであります。

しかし、基本的な松本氏の批判宗学の意図しようとしている姿勢につきましては、私自身、かつて仏教に対しての無知さ、無批判さ、認識の甘さによる反省から、おおむねで認めるところでございます。

さて、批判宗学の批判の一つに、批判宗学自身が、提唱第六で「縁起説」を絶対視化しようしているのではないか、それは偏見であり、提唱第一・提唱第二と矛盾するのではないかという、「批判宗学」批判があります。(現に提唱第二において、提唱第一の対象として「教義(縁起説)」も挙げられていることから)

この点に関して、私見を述べさせて頂くならば、松本氏の真なる意図は分からないところがありますが、提唱第二における「縁起説」と提唱第六における「縁起説」の真なるところの意味合いは大きく異なっているものではないだろうかと考えています。非常にその差異を表現するのは難しく思いますが、後者の「縁起説」は、「無実体・無自性・無自相的縁起説」と言えるのではないかと考えます。

もう少し分かりやすく申しますと、前者の縁起説は、「惑・業・苦の業感縁起説、十二支縁起説など、いわゆる時間的・空間的縁起、因果関係的な縁起説」のことを意図し、後者は、「無実体・無自性・無自相としての縁起説、論理的な縁起説、中観思想、特に中観帰謬論証派(ツォンカパ論師の中観思想)が捉えようとするところの縁起説」と言えるのではないかと考えています。

ただ、このあたりのところはやはり非常に難しい差異が控えているような気もしておりますので、ツォンカパ論師の中観思想の学びの進捗とも関わってくるところでもあり、更に今後考察していくべき課題として、今はまだこの見解につきましては、結論を保留させて頂こうかと思っております。

少し「ツォンカパ論師の中観思想を学ぶ意義」に関しましての考察は小休止させて頂きまして、引き続きまして、「道元思想論」の内容に関しまして考えて参りたいと存じます。

・・

「禅思想の批判的研究・松本史朗著・大蔵出版 」を一読して
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51769465.html

ツォンカパ論師の中観思想を学ぶ意義4-5
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51768858.html

ツォンカパ論師の中観思想を学ぶ意義1-3
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51766505.html

「非有・非無の中道」について
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51764526.html

「縁起賛」・「ラムツォ ナムスム(道の三要訣)」・「四つの捕われから離れる秘訣」
http://blog.goo.ne.jp/hidetoshi-k/m/197611

「蟻の瓶と象の瓶」齋藤保高氏
http://rdor-sems.jp/index.php?%E8%9F%BB%E3%81%AE%E7%93%B6%E3%81%A8%E8%B1%A1%E3%81%AE%E7%93%B6

教理の考察「蟻の瓶と象の瓶」(齋藤保高氏)・感想1-3
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51749171.html

チベット仏教ゲルク派 宗学研究所
http://rdor-sems.jp/
ポタラ・カレッジ 齋藤保高氏の個人サイト

「苦楽中道説について」
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51739221.html

「苦楽中道説について」補足
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51746333.html

中観帰謬論証派の学びのススメ
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/archives/51597159.html

mixiコミュニティ「仏教・中観思想・空思想を学ぶ」
http://mixi.jp/view_community.pl?id=4629752

仏教・学びの進捗状況全般参照
http://blog.livedoor.jp/hidetoshi1/

集中的に再読していく論著集

「中論―縁起・空・中の思想(上・中・下)」三枝充悳著 レグルス文庫
「大乗仏典14 龍樹論集」 中央公論新社
「講座 大乗仏教7 中観思想」春秋社
「講座 大乗仏教9 認識論と論理学」春秋社
「講座 仏教思想1 存在論・時間論」理想社
「講座 仏教思想2 認識論・論理学」理想社
「チベット仏教哲学」松本史朗著・大蔵出版
「チャンドラキールティの中観思想」岸根敏幸著・大東出版社
「ツォンカパの中観思想―ことばによることばの否定」四津谷孝道著・大蔵出版
「ツォンカパ 中観哲学の研究1」
「ツォンカパ 中観哲学の研究2」
「ツォンカパ 中観哲学の研究3」
「ツォンカパ 中観哲学の研究4」
「ツォンカパ 中観哲学の研究5」
「般若経釈 現観荘厳論の研究」兵藤一夫著 文栄堂
「ダライ・ラマ 般若心経入門」ダライ・ラマ14世著、宮坂宥洪翻訳・春秋社
「ダライ・ラマの仏教哲学講義―苦しみから菩提へ」
 テンジンギャツォ著・TenzinGyatso原著・福田洋一翻訳・大東出版社
「チベット仏教成就者たちの聖典『道次第・解脱荘厳』解脱の宝飾」
 ガムポパ著・ツルティム・ケサン、藤仲 孝司共訳 UNIO
「心の迷妄を断つ智慧―チベット密教の真髄」
 チュギャム トゥルンパ著・宮坂宥洪訳
「チベット密教 修行の設計図」
 斎藤保高著・春秋社
「チベット密教 心の修行」
 ゲシェー・ソナム・ギャルツェン ゴンタ著、藤田省吾著 法蔵館
「チベット仏教 文殊菩薩(マンジュシュリ)の秘訣」
 ソナム・ギャルツェン・ゴンタ著 法蔵館
『ダライ・ラマの「中論」講義―第18・24・26章 』
 ダライラマ14世テンジンギャツォ著・マリアリンチェン翻訳 大蔵出版
「悟りへの階梯―チベット仏教の原典『菩提道次第論』」
 ツォンカパ著・ツルティムケサン翻訳・藤仲孝司翻訳 UNIO
『「空」の構造 -「中論」の論理』立川武蔵著・第三文明社

施本シリーズ

施本「仏教・縁起の理解から学ぶ」
http://oujyouin.com/enginorikai.html
施本・「仏教・空の理解から学ぶ」
http://oujyouin.com/topengi.htm
施本「仏教・空の理解」
http://oujyouin.com/sunyatop.htm
施本「仏教 〜 一枚の紙から考える 〜」
http://oujyouin.com/buddhism1p.html
施本「佛の道」
http://oujyouin.com/hotokenomichi.html


   





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